山吹の花・俊頼髄脳

道信の中将の、山吹の花を持ちて、上の御局といへる所を過ぎけるに、
道信中将が、山吹の花を持って、上の御局といっている所を通り過ぎたときに、
・道信の中将 … 名詞
・の … 格助詞
・山吹の花 … 名詞
・を … 格助詞
・持ち … 四段活用の動詞「持つ」の連用形
・て … 接続助詞
・上の御局 … 名詞
・と … 格助詞
・いへ … 四段活用の動詞「いふ」の命令形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・所 … 名詞
・を … 格助詞
・過ぎ … 上二段活用の動詞「過ぐ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 格助詞

女房たち、あまたゐこぼれて、「さるめでたきものを持ちて、
女房たちが、大勢はみだし座っていて、「そんなすばらしい物を持って、
・女房たち … 名詞
・あまた … 副詞
・ゐこぼれ … 下二段活用の動詞「ゐこぼる」の連用形
・て … 接続助詞
・さる … 連体詞
・めでたき … ク活用の形容詞「めでたし」の連体形
・もの … 名詞
・を … 格助詞
・持ち … 四段活用の動詞「持つ」の連用形
・て … 接続助詞

ただに過ぐるやうやある。」と言ひかけたりければ、
そのまま黙って通り過ぎることがありましょうか。」と言葉をかけたところ、
・ただに … 形容動詞「ただなり」の連用形
・過ぐる … 上二段活用の動詞「過ぐ」の連体形
・やう … 名詞
 … 係助詞・反語
・ある … ラ行変格活用の動詞「あり」連体形(結び)
・と … 格助詞
・ … 四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・言ひかけ … 下二段活用の動詞「言ひかく」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

もとよりや、まうけたりけむ、
前もって準備していたのだろうか、
・もとより … 副詞
 … 係助詞・疑問
・まうけ … 下二段活用の動詞「まうく」の連用形
・たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・けむ … 過去推量の助動詞「けむ」連体形(結び)

  くちなしにちしほやちしほそめてけり
  山吹の花をくちなしで何度も染めたなあ
  ・くちなし … 名詞
  ・に … 格助詞
  ・ちしほ … 名詞
  ・やちしほ … 名詞
  ・そめ … 下二段活用の動詞「そむ」の連用形
  ・て … 完了の助動詞「つ」の連用形
  ・けり … 詠嘆の助動詞「けり」の終止形

と言ひて、さし入れければ、若き人々、え取らざりければ、
と言って、さし入れたところ、若い人々が、受け取ることができなかったので、
・と … 格助詞
・言ひ … 四段活用の動詞「言ふ」の連用形
・て … 接続助詞
・さし入れ … 上二段活用の動詞「さし入る」連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞
・若き … ク活用の形容詞「若し」の連体形
・人々 … 名詞
・え … 副詞
・取ら … 四段活用の動詞「取る」の未然形
・ざり … 打消の助動詞「ず」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

奥に、伊勢大輔が候ひけるを、「あれ取れ。」と宮の仰せられければ、
奥に、伊勢大輔がお仕えしていたが、「あれを取りなさい。」と中宮がおっしゃられたので、
・奥 … 名詞
・に … 格助詞
・伊勢大輔 … 名詞
・が … 格助詞
・候ひ … 四段活用の動詞「候ふ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・を … 接続助詞
・あれ … 代名詞
・取れ … 四段活用の動詞「取る」の命令形
・と … 格助詞
・宮 … 名詞
・の … 格助詞
・仰せ … 四段活用の動詞「仰す」の未然形
仰す … 「言う」の尊敬語
      ⇒ 作者から中宮への敬意

・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形
      ⇒ 作者から中宮への敬意
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ば … 接続助詞

承りて、一間がほどを、ゐざり出でけるに、思ひよりて、
承諾申し上げて、一間ほど座ったまま進み出た時に、思いついて、
・承り … 四段活用の動詞「承る」の連用形
承る … 「承諾する」の謙譲語
      ⇒ 作者から中宮への敬意

・て … 接続助詞
・一間 … 名詞
・が … 格助詞
・ほど … 名詞
・を … 格助詞
・ゐざり出で … 下二段活用の動詞「ゐざり出づ」の連用形
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・に … 格助詞
・思ひより … 四段活用の動詞「思ひよる」の連用形
・て … 接続助詞

  こはえもいはぬ花のいろかな
  これは何とも言えず美しい花の色だなあ
  ・こ … 代名詞
  ・は … 係助詞
  ・え … 副詞
  ・も … 係助詞
  ・いは … 四段活用の動詞「いふ」の未然形
  ・ぬ … 打消の助動詞「ず」の連体形
  ・花 … 名詞
  ・の … 格助詞
  ・いろ … 名詞
  ・かな … 終助詞

とこそ、付けたりけれ。
と、下の句を付けたのだった。
・と … 格助詞
こそ … 係助詞・強調
・付け … 下二段活用の動詞「付く」の連用形
・たり … 完了の助動詞「たり」の連用形
・けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形(結び)

これを、上聞こしめして、「大輔なからましかば、恥ぢがましかりけることかな。」とぞ、仰せられける。
これを、帝がお聞になって、「大輔がいなかったら、恥をさらすところだったなあ。」と、おっしゃられた。
・これ … 代名詞
・を … 格助詞
・上 … 名詞
・聞こしめし … 四段活用動詞「聞こしめす」連用
聞こしめす … 「聞く」の尊敬語
         ⇒ 作者から帝への敬意

・て … 接続助詞
・大輔 … 名詞
・なから … ク活用の形容詞「なし」の未然形
・ましか … 反実仮想の助動詞「まし」の已然形
・ば … 接続助詞
・恥ぢがましかり … シク活用の形容詞「恥ぢがまし」の連用形
・恥ぢ … 名詞
・がまし … シク活用型接尾語「がまし」
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・こと … 名詞
・かな … 終助詞
・と … 格助詞
 … 係助詞・強調
・仰せ … 四段活用動詞「仰す」の未然形
仰す … 「言う」の尊敬語
      ⇒ 作者から帝への敬意

・られ … 尊敬の助動詞「らる」の連用形
      ⇒ 作者から帝への敬意
・ける … 過去の助動詞「けり」の連体形(結び)

これらを思へば、心疾きも、かしこきことなり。
これらのことを考えると、鋭く思いつくことも、すばらしいことである。
・これら … 代名詞
・を … 格助詞
・思へ … 四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・心疾き … ク活用の形容詞「心疾し」の連体形
・も … 係助詞
・かしこき … ク活用の形容詞「かしこし」の連体形
・こと … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

心疾く歌を詠める人は、なかなかに、久しう思へば、悪しう詠まるるなり。
鋭く思いつき歌を詠んでいる人は、なまじっか、長く思考すると、悪く詠んでしまうことになる。
・心疾く … ク活用の形容詞「心疾し」の連用形
・歌 … 名詞
・を … 格助詞
・詠め … 四段活用の動詞「詠む」の命令形
・る … 存続の助動詞「り」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・なかなかに … 形容動詞「なかなかなり」連用形
・久しう … シク活用の形容詞「久し」の連用形(ウ音便)
・思へ … 四段活用の動詞「思ふ」の已然形
・ば … 接続助詞
・悪しう … シク活用の形容詞「悪し」の連用形(ウ音便)
・詠ま … 四段活用の動詞「詠む」の未然形
・るる … 自発の助動詞「る」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

心おそく詠み出だす人は、すみやかに詠まむとするもかなはず。
じっくり思考して詠み出す人は、すばやく詠もうとしてもできない。
・心 … 名詞
・おそく … ク活用の形容詞「おそし」の連用形
・詠み出だす … 四段活用の動詞「出だす」の連体形
・人 … 名詞
・は … 係助詞
・すみやかに … 形容動詞「すみやかなり」の連用形
・詠ま … 四段活用の動詞「詠む」の未然形
・む … 意志の助動詞「む」の終止形
・と … 格助詞
・する … サ行変格活用動詞「す」の連体形
・も … 係助詞
・かなは … 四段活用の動詞「かなふ」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

ただ、もとの心ばへにしたがひて、詠み出だすべきなり。
ただ、もともとの性質にしたがって、詠み出すべきである。
・ただ … 副詞
・もと … 名詞
・の … 格助詞
・心ばへ … 名詞
・に … 格助詞
・したがひ … 四段活用動詞「したがふ」の連用形
・詠み … 四段活用動詞「詠む」の連用形
・出だす … 四段活用動詞「出だす」の終止形
・べき … 適当の助動詞「べし」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

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