うひ山ぶみ・本居宣長

いづれの品にもせよ、学びやうの次第も、一わたりの理によりて、
どの学問の分野にせよ、学び方の順序も、ひと通りの道理によって、
・いづれ … 代名詞
・の … 格助詞
・品 … 名詞
・に … 格助詞
・も … 係助詞
・せよ … サ行変格活用動詞「す」の命令形
・学びやう … 名詞
・の … 格助詞
・次第 … 名詞
・も … 係助詞
・一わたり … 名詞
・の … 格助詞
・理 … 名詞
・に … 格助詞
・より … 四段活用動詞「よる」の連用形
・て … 接続助詞

云々してよろしと、さして教へんは、やすきことなれども、
こうこうすればよいと、はっきりと示して教えるのは、容易なことであるけれども、
・云々 … 名詞
・し … サ行変格活用動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・よろし … 形容詞「よろし」の終止形
・と … 格助詞
・さして … 副詞
・教へ … 下二段活用動詞「教ふ」の未然形
・ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形
・は … 係助詞
・やすき … 形容詞「やすし」の連体形
・こと … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ども … 接続助詞

そのさして教へたるごとくにして、果たしてよきものならんや、
そのはっきりと示して教えるようであって、果たしてよいものだろうか、
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・さして … 副詞
・教へ … 下二段活用動詞「教ふ」の連用形
・たる … 存続の助動詞「たり」の連体形
・ごとくに … 比況の助動詞「ごとくなり」の連用形
・して … 接続助詞
・果たして … 副詞
・よき … 形容詞「よし」の連体形
・もの … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形
・や … 係助詞

また思ひの外にさては悪しきものならんや、実には知りがたきことなれば、
あるいは意外にそれではよくないものだろうか、実際はわかりにくいことなので、
・また … 接続詞
・思ひの外に … 形容動詞「思ひの外なり」の連用形
・さては … 副詞
・悪しき … 形容詞「悪し」の連体形
・もの … 名詞
・なら … 断定の助動詞「なり」の未然形
・ん … 推量の助動詞「ん」の終止形
・や … 係助詞
・実に … 副詞
・は … 係助詞
・知り … 四段活用動詞「知る」の連用形
・がたき … ク活用型接尾語「がたし」の連体形
・こと … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞

これもしひては定めがたきわざにて、実はただその人の心まかせにしてよきなり。
これも無理には決めにくいことであって、本当は、ただその人の思いどおりにしてよいことなのである。
・これ … 代名詞
・も … 係助詞
・しひて … 副詞
・は … 係助詞
・定めがたき … ク活用の形容詞「定めがたし」の連体形
・わざ … 名詞
・に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・て … 接続助詞
・実 … 名詞
・は … 係助詞
・ただ … 副詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・の … 格助詞
・心まかせ … 名詞
・に … 格助詞
・し … サ行変格活用動詞「す」の連用形
・て … 接続助詞
・よき … 形容詞「よし」の連体形
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

詮ずるところ学問は、ただ年月長く倦まず怠らずして、励みつとむるぞ肝要にて、
要するに学問は、ただ長い年月の間飽きたり怠けたりしないで、励み努力することが大切なのであって、
・詮ずるところ … 副詞
・学問 … 名詞
・は … 係助詞
・ただ … 副詞
・年月 … 名詞
・長く … 形容詞「長し」の連用形
・倦ま … 四段活用動詞「倦む」の未然形
倦む … あきて嫌になる
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・怠ら … 四段活用動詞「怠る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・して … 接続助詞
・励み … 四段活用動詞「励む」の連用形
・つとむる … 下二段活用動詞「つとむ」の連体形
・ぞ … 係助詞
・肝要に … 形容動詞「肝要なり」の連用形
・て … 接続助詞

学びやうは、いかやうにてもよかるべく、さのみかかはるまじきことなり。
学び方は、どのようでもよいはずであり、それほどこだわらなくてもよいことなのである。
・学びやう … 名詞
・は … 係助詞
・いかやうに … 形容動詞「いかやうなり」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・よかる … 形容詞「よし」の連用形
・べく … 当然の助動詞「べし」の連用形
○さのみ ⇒ さ(副詞)+のみ(副助詞)
さのみ(~打消) … それほど(~ない)
・かかはる … 四段活用動詞「かかはる」の終止形
・まじき … 打消当然の助動詞「まじ」の連体形
・こと … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

いかほど学び方よくても、怠りてつとめざれば、功はなし。
どれほど学び方がよくても、怠けて努力しなければ、成果があがらない。
・いかほど … 副詞
・学び方 … 名詞
・よく … 形容詞「よし」の連用形
・て … 接続助詞
・も … 係助詞
・怠り … 四段活用動詞「怠る」の連用形
・つとめ … 下二段活用動詞「つとむ」の未然形
・ざれ … 打消の助動詞「ず」の已然形
・ば … 接続助詞
・功 … 名詞
・は … 係助詞
・なし … 形容詞「なし」の終止形

また、人々の才と不才とによりて、その功いたく異なれども、
また、人々の才能の有無によって、その成果はとても異なるけれども、
・また … 接続詞
・人々 … 名詞
・の … 格助詞
・才 … 名詞
・と … 格助詞
・不才 … 名詞
・と … 格助詞
・に … 格助詞
・より … 四段活用動詞「よる」の連用形
・て … 接続助詞
・そ … 代名詞
・の … 格助詞
・功 … 名詞
・いたく … ク活用の形容詞「いたし」の連用形
・異なれ … 形容動詞「異なり」の已然形
・ども … 接続助詞

才・不才は生まれつきたることなれば、力に及びがたし。されど大抵は、
才能の有無は生まれついてのことなので、人の力では、いかんともしがたい。しかし大抵は、
・才 … 名詞
・不才 … 名詞
・は … 係助詞
・生まれつき … 四段活用動詞「生まれつく」の連用形
・たる … 完了の助動詞「たり」の連体形
・こと … 名詞
・なれ … 断定の助動詞「なり」の已然形
・ば … 接続助詞
・力 … 名詞
・に … 格助詞
・及びがたし … ク活用の形容詞「及びがたし」の終止形
・されど … 接続詞
・大抵 … 名詞
・は … 係助詞

不才なる人といへども、怠らずつとめだにすれば、それだけの功はあるものなり。
才能のない人といっても、怠けずに努力さえすれば、それだけの成果はあがるものである。
・不才なる … 形容動詞「不才なり」の連体形
・人 … 名詞
・と … 格助詞
・いへ … 四段活用動詞「いへ」の已然形
・ども … 接続助詞
・怠ら … 四段活用動詞「怠る」の未然形
・ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・つとめ … 名詞
・だに … 副助詞
・すれ … サ行変格活用動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
・それ … 代名詞
・だけ … 副助詞
・の … 格助詞
・功 … 名詞
・は … 係助詞
・ある … ラ行変格活用動詞「あり」の連体形
・もの … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

また、晩学の人も、つとめ励めば、思ひの外、功をなすことあり。
また、年をとってから学問を始めた人も、努力し励めば、案外、成果をあげることがある。
・また … 接続詞
・晩学 … 名詞
・の … 格助詞
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・つとめ … 下二段活用動詞「つとむ」の連用形
・励め … 四段活用動詞「励む」の已然形
・ば … 接続助詞
・思ひの外 … 名詞
・功 … 名詞
・を … 格助詞
・なす … 四段活用動詞「なす」の連体形
・こと … 名詞
・あり … ラ行変格活用動詞「あり」の終止形

また、暇のなき人も、思ひの外、暇多き人よりも、功をなすものなり。
また、時間の余裕のない人も、案外、時間の余裕の多い人よりも、成果をあげるものである。
・また … 接続詞
・暇 … 名詞
・の … 格助詞
・なき … 形容詞「なし」の連体形
・人 … 名詞
・も … 係助詞
・思ひの外 … 名詞
・暇 … 名詞
・多き … 形容詞「多し」の連体形
・人 … 名詞
・より … 格助詞
・も … 係助詞
・功 … 名詞
・を … 格助詞
・なす … 四段活用動詞「なす」の連体形
・もの … 名詞
・なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

されば、才の乏しきや、学ぶことの晩きや、
だから、才能が乏しいことや、学び始めるのが遅かったことや、
・されば … 接続詞
・才 … 名詞
・の … 格助詞
・乏しき … 形容詞「乏し」の連体形
・や … 間投助詞
・学ぶ … 四段活用動詞「学ぶ」の連体形
・こと … 名詞
・の … 格助詞
・晩き … 形容詞「晩し」の連体形
・や … 間投助詞

暇のなきやによりて、思ひくづをれて、止むることなかれ。
時間の余裕がないことによって、気持ちがくじけて、やめてはならない。
・暇 … 名詞
・の … 格助詞
・なき … 形容詞「なし」の連体形
・や … 間投助詞
・に … 格助詞
・より … 四段活用動詞「よる」の連用形
・て … 接続助詞
・思ひ … 名詞
・くづをれ … 下二段活用動詞「くづをる」の連用形
・て … 接続助詞
・止むる … 下二段活用動詞「止む」の連体形
・こと … 名詞
・なかれ … 形容詞「なし」の命令形

とてもかくても、つとめだにすれば、できるものと心得べし。
いずれにしても、努力さえすれば、できるものだと心得るべきである。
○とても ⇒ と(副)+て(接続助)+も(係助)
○かくても ⇒ かく(副)+て(接続助)+も(係助)
・つとめ … 名詞
・だに … 副助詞
・すれ … サ行変格活用動詞「す」の已然形
・ば … 接続助詞
・できる … 上一段活用動詞「できる」の連体形
・もの … 名詞
・と … 格助詞
・心得 … 下二段活用動詞「心得」の終止形
・べし … 適当の助動詞「べし」の終止形

すべて思ひくづをるるは、学問に大きに嫌ふことぞかし。
総じて、気持ちがくじけることは、学問において非常に好ましくないことなのだよ。
・すべて … 副詞
・思ひ … 名詞
・くづをるる … 下二段活用動詞「くづをる」の連体形
・は … 係助詞
・学問 … 名詞
・に … 格助詞
・大きに … 形容動詞「大きなり」の連用形
・嫌ふ … 四段活用動詞「嫌ふ」の連体形
・こと … 名詞
・ぞ … 終助詞
・かし … 終助詞